第五話「ひみつの家族」 <前編>

前回、弟のマコトが生まれて何かと変わりつつある青田家。
グミちゃんはその変化にとまどう毎日を送っているようです。

さあ今日のおてがみは?

*****************

はいけい サンタクロースさま

サンタさん、お元気ですか?
わたしのおてがみ、読んでくれていますか?

今、わたしは原っぱの土管のなかで
おてがみを書いています。
なんでかと言うと、家出をしたからです。


ちょっと長くなりますが、聞いてください。


マコトが生まれてから、グミのおうちはちょっと変わりました。
おかあさんはマコトの世話にかかりきりです。
おにいちゃんも学校が終わってからは
おかあさんの代わりに、お店の手伝いとかで忙しいです。

グミが「ねえねえ」っておはなしすると、
「あとでな」
おかあさんもおにいちゃんも忙しそうにして
ぜんぜんグミのおはなしをきいてくれません。
いつもなら、おとうさんだけは仕事をしていても
グミのおはなしをきいてくれるから
おとうさんのところへ行きました。

おとうさん、いそがしそうやな

でもおとうさんは難しい顔をして、
帳簿をつけていました。
おとうさんは、おかあさんがあまりお店を手伝えなくなってから
お仕事が忙しくなったみたいです。
いつものやさしいおとうさんではなく、
お仕事のおとうさんでした。
グミは、何にも言えなくて、
おとうさんとおはなしするのをあきらめました。

マコトも新しい家族やし、グミもすごくうれしかったけど
なんかマコトが生まれてから、
グミはひとりぼっちになったみたいで
ちょっとさみしい気分になりました。

晩ご飯の時間になりました。
みんなでごはん食べるときも、マコトの話ばかりです。
だれもグミのおはなしは聞いてくれません。

サンタさんがここにいたら
グミのおはなし聞いてもらうのにね。
ちぇっ・・。

でも、みんなにはないしょやけど、
グミにひみつの家族ができたの。
サンタさんにだけおはなしするね。


もう何日も前になるけど、
原っぱで一人で遊んでいたら、
「クンクン、クンクン」
って、泣くような声が聞こえてきました。


何かなと思ってキョロキョロしていると、
土管の中から小さな小犬が出てきたのです。
小犬は白と茶色のぶち犬で、
シッポをばたばた振ってグミに近寄ってきました。

だっこしようと思ってしゃがむと、
土管の中にもう一匹犬がいるのに気がつきました。
それは小犬より大きい犬でした。
でもガリガリにやせていて、
毛はガサガサで、とてもよごれていました。
元気がなさそうで、ぐったりしていました。
グミの顔を見たとたん、「うーっ」とうなって怒るので、
ちょっと恐くなりました。

でもサンタさん、その犬はね、
ガリガリなのに、おっぱいが大きかったの。
グミはすぐに、小犬のおかあさんだとわかりました。
元気がないのはおなかがすいてるのかな。
病気なのかな。

グミはかわいそうになって、
すぐに家に帰りました。
なにか食べ物を取ってきて
おかあさん犬にあげようと思ったからです。


家に帰ったら、朝ごはんの焼き魚の残りがありました。
おひつにもちょっとだけごはんが残っていたので、
お魚とごはんを新聞紙に包んで、
すぐに土管にもどりました。

ほら、これ食べな

「これ食べな」
おかあさん犬の前に、新聞紙に敷いたごはんを出すと、
犬は「うー」とうなっていたけれど、
がつがつ食べはじめました。
からだをブルブル震わせながら、
一生懸命食べていました。
ごはん、ずっと食べていなかったのかな。
だから元気がなかったのかな。

小犬もしっぽを振って、
ごはんの匂いをくんくんかいでいました。
まだ小さいから、ごはんは食べられないみたいです。
でも、おかあさんがおなかいっぱいになったら
たくさんおっぱいが飲めるかもしれないね。

グミは、うちのマコトを思い出しました。
この小犬も、マコトみたいに
おかあさんに抱っこされて
おいしそうにおっぱいを飲むのかな。


次の日も気になって、また土管を見に行きました。
台所で食べ物を探したけど何も残っていなかったので、
3時のおやつのカステラをちょこっとだけ食べて
あとはこっそり新聞紙に包んで持って行きました。
おかあさん犬はぺロッと食べました。
まだ「うー」ってうなっていたけれど、
前の日よりは恐くありませんでした。


そして次の日も、次の次の日も、
グミは毎日食べ物を持って土管に行きました。
もう、おかあさん犬は「うー」といわなくなりました。
小犬はグミを見るたびに、しっぽを振って飛びついてくるのですが、
おかあさん犬は、ばっさばっさと、
しっぽをゆっくり振るようになりました。
グミがくるのを待っててくれてるみたいでした。

グミはうれしくて、おかあさん犬の頭をなでてあげました。
頭もガリガリに痩せてて、ごつごつしていました。
あちこちの毛がぬけていて、血が出ていました。
それを見たら、胸がじんと痛くなりました。
お薬ぬったら直るのかな。毛も生えてくるのかな。

「今度お薬もってくるね」
そう言うと、おかあさん犬は気持ちよさそうに目をつぶり、
ごろんと横になりました。
すると小犬がしっぽを振りながら
おかあさんのおっぱいを吸い始めました。
ごくごく、ごくごく。
すごくおいしそう。

それを見てたらうれしくて、
明日も、ずっとずっと、
ごはんを持ってきてあげるね、って言いました。
おかあさん、もっと元気になるといいな。
もっとおっぱい飲めるといいな。


次の日、いつものように、
こっそり残したおやつと、
薬箱から赤チンを取ってきて土管に行くと、
小犬だけでおかあさんはいませんでした。
「おかあさんはどうしたの?」
小犬に聞いても、クンクン鳴いてしっぽを振るだけです。

どこに行ったんやろ?
小犬をおいて、おかあさん、どこに行ったん?

グミは必死で土管のまわりを探しました。
草むらとか、川べりとか、
近くのお墓まで見に行きました。
小犬も後ろからついて来ました。
「おかあさん、どこ行ったんかなあ」
小犬はしっぽを振っていたけど、
すごく心配そうでした。
なんかかわいそうになって、小犬を抱っこしてあげました。
小犬はぶるぶる震えていました。
おかあさん、ぼくを置いてどこいったん?
・・そう言うてるみたいでした。


「グミちゃん、何してんの?」
うしろから声がしたので振り向くと、
あきぼんとフトシにいちゃんでした。
二人はうちのトシオにいちゃんの友達です。

「犬がおらんようになった・・」
そういうと、すごく悲しくなって、
グミはわあわあ泣いてしまいました。
「犬?」
「うん。土管にいたん。おかあさんと、この子と。
でも今日きたらおかあさんがおらへん・・」

「ああ、あの犬か?茶色のめす犬やろ?」
あきぼんが言いました。
「あの犬やったら、保健所が連れていったみたいやで」
「ほけんじょ?」
「そうや。こわい野良犬がいるいうて、
だれかが保健所に言うたさかい、連れにきたみたいや」
「もう帰ってきいひんの?また帰ってくるん?」
「アホな。保健所行ったら死ぬんやで。もう帰るかいな」

死ぬん?
なんで?
なんで?
いやや、死んだらいやや!
グミのこと、待っててくれたのに。
グミが持っていったごはん、よろこんで食べてくれてたのに。
小犬がひとりぼっちになるやんか。
もうおっぱい飲まれへんやんか。

ガリガリに痩せた病気のおかあさん犬。
最初は「うー」ってうなってたけれど
一生懸命小犬におっぱいを飲ませていた
やさしいおかあさん犬。
ちっとも恐くなんかないのに。
なんで保健所につれていくの?
なんで?
なんで?


・・それを思い出したら、悲しくて、
またわあわあ泣いてしまいました。
あきぼんもフトシにいちゃんも、困ったように、
「泣かんとき。なあ、泣いたらあかんて」
って言いました。
小犬はぶるぶる震えたまま、グミに抱っこされていました。


グミは泣きながら、小犬を抱いて家に帰りました。
もうおかあさん犬がいないから、
小犬は一人ぼっちになってしまいます。
家で飼おうと思いました。
うちの子にしようと思いました。


でも、サンタさん。
うちに入るなり、おかあさんに怒られたの。
「犬なんか飼えへんで。あかんに決まってるやろ?
赤ちゃんが生まれたとこやのに、
犬なんか飼うよゆうないの。
さっさと置いておいで。」
おかあさんは玄関先でそう言うと、
怒って台所に入りかけて、またもどってきました。

「最近、台所の食べもんが無くなってると思ったら
あんたやったんやな?
犬にあげよう思って、取ってたんちがうか?
正直に言いなさい。そうなんやろ?」
おかあさんはすごく恐い顔をして、そう言いました。
するとおにいちゃんがやって来て、
「そういえばこいつ、おやつを残してどっかに持って行ってたで。
犬にやるつもりやったんやろ。」
って言うのです。
グミは、小犬をぎゅっと抱いたまま、
じっとうつむいていました。

病気のおかあさん犬がいたこと、
やっと元気になってきたのに、
保健所に連れていかれたこと、
小犬がひとりぼっちになってしまったこと、
みんな話そうと思っていたけど、
もう何もいえませんでした。
涙がポトポトこぼれてきて、
小犬の頭に落ちていきました。


お仕事がひと段落したのか、おとうさんがきました。
「おとうさんからもいってやってください。
この子、犬飼うとかいうてますん」
おかあさんがそういうのを、おとうさんはだまってきいています。
でも、おとうさんなら、
小犬を飼ってもいいよっていってくれると思ったのです。

「グミ、犬はあかんわ。
その犬の分もマコトをかわいがってやってくれ、な」
おとうさんはそういいながら、グミの頭をなでました。
でもグミは、ぽーっとしてしまいました。
グミはおとうさんが犬を飼ってもいいって言ってくれなかったことが
すごくすごくショックで、
何が何だかわからなくなってしまったんです。


すると家の奥から、マコトが泣く声がしました。
「よしよし、おっぱいあげよね」
さっきまであんたに怒っていたおかあさんが
急にやさしい声を出して、マコトにおっぱいをあげています。
おにいちゃんもおとうさんも、
そのようすをすごくうれしそうに見ています。


それを見て、なんだかよそのおうちを見ているような気分になりました。
グミはこの家の子じゃないの・・・・?
マコトとおんなじように、
おとうさんとおかあさんの子供じゃなかったん?


ふと小犬の顔を見ました。
すると小犬もさみしそうな顔でグミの顔を見ています。
この子と一緒で、グミも家族がないんかもしれん・・・・


どうしたらいいのかわからなくなって
小犬をだっこしたまま、こっそり家を出ました。
涙がまたボトボトこぼれてきて、
目の前がどんどんにじんて行きました。
グミと小犬は暗い夜道をとぼとぼ歩いて行きました。

どこに行ったらええんやろ・・・

どこに行ったらいいかわからなくて、
いっぱい歩いたあと、
結局おかあさん犬がいた土管に戻ってきました。
ここは寒くて暗くて恐いし、
おなかもすいたけど、がまんします。

だって
グミも小犬もひとりぼっちで
だったら、これからはグミがこの小犬のおかあさんになって
この土管であたらしい家族として
がんばっていこうと思ったからです。

こんどは、グミが小犬のおかあさんになる番だから。
これからはがんばって、いいおかあさんになります。
サンタさん、見守っていてね。


またおてがみ書きます。
さようなら。


昭和36年2月20日

青田グミ