前回、おかあさん犬と引き離された小犬を抱いて
こっそり家出したグミちゃん。
小犬と一緒に原っぱの土管で暮すことを決意したのですが・・。
さあ今日のおてがみは?
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はいけい サンタクロースさま
サンタさん、お元気ですか?
この間のおてがみ読んでくれましたか?
グミは今、おふとんの中でこのおてがみを書いています。
おかあさんに見つかったら
「ちゃんと寝てなさい!」って怒られるのでドキドキです。
でも今日はうれしいことがあったの。
おばあちゃんがお見舞いに来てくれて
みかんの缶詰をくれました。
グミはみかんの缶詰が大好きです。
近所の八百屋さん(沢村青果店っていいます)で買ったそうで
おばあちゃんが、沢村のおっちゃんに
グミが病気で寝てると言ったら
「グミちゃんに食べさせてあげてんか」って
バナナを二本、くれたそうなのです。
うれしいなあ。バナナも大好きだから。
それから、もっとうれしいのは、
おばあちゃんが、
「グミが元気になったら、おじいちゃんと一緒に
大阪の百貨店に連れていってあげるさかいにな」だって。
うれしいなあ。
うれしいなあ。
だから早く元気になるように、いい子でいます。
そうそう、サンタさん、グミはね、今病気なの。
だいぶ良くなったらしいのですが
ちょっと前までは誰かがグミの名前を呼んでも
返事もできないぐらいで、でもグミは何にもおぼえてないの。
ずっと寝てたから。
でもその間のことは、トシオにいちゃんが教えてくれたので
サンタさんにもおはなしします。
また長くなるけど聞いてね。
小犬を連れて原っぱの土管に来て
サンタさんにおてがみを書いたあと
雪が降り出して、どんどん積もっていきました。
時々ビュービュー風が吹いて
土管の中にもいっぱい雪が入ってきました。
グミは寒くて寒くて、小犬をずっと抱いていました。
小犬もブルブル震えて、グミにしがみついていました。
早く雪がやまないかなあ。
早く朝にならないかなあ。
でも雪は全然やまなくて、ずっと降り続きました。
からだ中が氷みたいに、冷たくなっていきました。
小犬の毛は、土管に入ってくる雪で
こおり水をかぶったようにぬれていました。
だんだん頭がボーっとしてきて
グミは何が何だかわからなくなってきました。
おとうさん。
おかあさん。
おにいちゃん。
それからマコト。
みんなの顔がぼんやり浮かんで来ました。
マコトが「へっくしょん」ってクシャミするのを見て、
かわいいね、ってみんなで笑ってるところ。
トシオにいちゃんがお相撲の大鵬のまねをして
みんなを笑わせているところ。
おかあさんが七輪でお魚を真っ黒こげに焼いて
「ごめんね」ってぺロッと舌を出しているところ。
おとうさんがステテコを反対に履いて
「かなんわあ」っておかあさんに笑われているところ。
晩ごはんの時は、いっつもみんなで、しゃべったり、笑ったり
とっても楽しかったんやで。
でも、もうグミのおうちじゃないねん。
あそこには戻ったらあかんねん。
もうあそこの子やないねん。
そう思ったら、すごく悲しくなりました。
また、涙がボトボトこぼれてきました。
それからだいぶ時間が経ってから
どこかから声が聞こえてきました。
グミはいつの間にか眠ってしまったようでした。
「グミちゃん!何してるん?大丈夫か?!」
うっすら目を開けると、近所の八幡食堂のおじさんが
土管をのぞいていました。
出前の帰りみたいでした。
「こんなとこで何してんの?大雪やのに!」
グミは動こうと思ったけれど
全然からだが動きません。
あんなに寒かったのに、からだは熱くて熱くて
それに、力が全然入らないのです。
「大丈夫か?」
「グミちゃん、しっかりしいや」
おじさんの声がだんだん遠くなっていきました。
すーっとどこかへ消えてしまうかのようでした。
それからどうなったのか、はっきりおぼえていません。
トシオにいちゃんの話では
おとうさんもおかあさんも、トシオにいちゃんも
グミが家出をしてから、ずっと近所を探し回ってくれてたそうです。
八幡食堂のおじさんがグミを抱えて連れてきてくれた時
おかあさんとトシオにいちゃんは
おふとんの用意をしてくれて
ずっとそばに寄り添ってくれてたんやて。
おかあさんがグミのそばで
「ごめんな、ごめんな。カンニンしてや」
っていってたって。
あとトシオにいちゃんが、
「おかあさん、ぼくの湯たんぽも持ってくるわ!」
っていうて、自分の湯たんぽを貸してくれたんやて。
おとうさんはお仕事がまだ終わってなかったみたいで
お仕事の続きをやってたみたいやけど
それでもすごい心配そうに
居間で寝てるグミの様子をうかがってたらしいです。

グミがうっすらおぼえているのは、おとうさんの顔。
お仕事のおとうさんじゃなくて
グミのおはなしを聞いてくれるときのやさしいおとうさんでした。
でも、すごく悲しそうな目でグミの顔を見ていました。
グミの手をぎゅっと握ったおとうさんの手は
かたくてガサガサで、でもとってもあったかくて
ちょっとだけ油のにおいがしました。
自転車の、修理用の油のにおい。
グミの頭をなでてくれるときの、おとうさんのにおい。
せっけんで手を洗っても消えへんのや、っていうてたね。
でもおとうさん、グミはこのにおい、大好きやったんやで。
だっておとうさんのこと大好きやもん。
でもね、サンタさん。
すごくびっくりしたことがあったの。
こんこんと眠っているときのこと。
グミはこんな夢を見ました。

色とりどりの風船がふとんにくくりつけられてて
夜空の中を、グミのからだごと
ふわふわ飛んでいるのです。
黒いふろしきに穴があいたように
真っ黒な夜空にいっぱい星が光っていました。
お月さんもゆらゆら輝いていました。
グミの横で、あの小犬も風船につかまって飛んでいました。
ふわふわ、ふわふわ。
ふと見下ろすと、下にはくすの木町が見えました。
グミが大好きなくすの木町。
みんなが住んでるくすの木町。
町の人たちの笑い声が聞こえてきそうでした。
その時、目がさめました。
目をうっすら開けた瞬間
「あっ!!」って叫んでしまいました。
だって、だって
目の前に、風船がいっぱい並んでいたからです。
びっくりしてまわりを見回したら
夢の中とおんなじように
おふとんの端っこに、いっぱい風船がくくりつけてあったのです。
赤、緑、紫、水色、だいだい色。
いろんな色の風船が、いっぱいいっぱい、ありました。
今にもこのおふとんごと飛んでいって
空に浮かんでいきそうでした。
くすの木町の上の、うんとうんと上のほうへ、
グミは飛んでいくかのようでした。
「あ!空飛ぶじゅうたんや!」
グミは大声でさけんでしまいました。
前にトシオにいちゃんに教えてもらった
空飛ぶじゅうたんのおはなしみたいやと思いました。
うれしくてうれしくて、グミはおふとんをゆすりました。
そしたら本当に飛べそうな気がしたのです。
おふとんをゆするたびに、風船も一緒に揺れました。
あっちこっちにゆらゆらと揺れていました。
いつまでもいつまでも、揺れていました。
トシオにいちゃんに後で聞いたのですが
おとうさんが、グミが風船を大好きなのを思い出して
ちょうど来ていた富山の置き薬屋さんに
風船をたくさんもらったらしいのです。
グミが病気なのを知ると、薬屋のおじさんは、
かばんにあるだけ風船を全部出して、
「グミちゃんにあげてください」
っていってくれたんや、とトシオにいちゃんはいうてました。
そういえば風船には、「ずつう」とか「むしくだし」とか
「とやまのくすり」とか、字が書いてあったけど、
薬屋さんがくれた風船やったからなんやね。
その夜、おとうさんは
ひとりで必死で風船をふくらませました。
「この風船、ふとんにくくりつけといてやろうな。
グミが目が覚めた時、いつでも見られるようにな」
そういうとおとうさんは、目をぐいっとふいて
まただまって風船をふくらませていたそうです。
そういえばトシオにいちゃんは、
グミが病気のおかあさん犬にえさをやっていたことを
あきぼんとフトシにいちゃんから後で聞いたそうです。
「そういうわけやったんか・・」
それをおとうさんとおかあさんに話すと、
「よう話も聞いてやらんと・・
かわいそうなことしてしもた・・」って泣いていたそうです。
サンタさん、それを聞いたら
グミはすごくうれしくなりました。
やっぱりグミはここのおうちの子やったんやな、って
うれしくなりました。
「おにいちゃん、またここの家にもどってきていいの?」
グミがそういうと、トシオにいちゃんは
「アホか!ええにきまってるやろ」
って怒りました。
おにいちゃんはすぐ怒るおこりんぼやけど
その時はすごくうれしかったです。
怒られてもいいからおにいちゃんやおかあさんや
おとうさんのそばにいたいと思いました。
この家が一番やと思いました。
その日、もっとうれしいことがありました。
おとうさんが居間にやってきて
「グミ、ええもん見せたろ」
っていうのです。
きょとんとしていると、おとうさんはガラガラ雨戸をあけました。
すると、そこには木でできた小さな小屋がありました。
「あ!犬小屋??」
びっくりして叫ぶと、中からあの小犬が顔を出しました。
思い切りしっぽを振って、縁側に登ろうとしています。
「おとうさん、なんで?」
グミはわけがわからなくて、おとうさんに聞きました。
「この子もうちの家族や。はよ名前考えたらんとな」
「いいの?飼ってもいいの?」
「可愛がってやるんやで」
「ありがとう、おとうさん!」
グミはうれしくて、小犬をぎゅっと抱きしめました。
「よかったね、もうひとりぼっちやないね」
小犬もうれしいのか、グミの鼻をペロペロなめました。
おとうさんはにっこり笑うと、わたしの頭をゴシゴシなでました。
あったかい、大きな手でした。
グミが大好きな、油のにおいがしました。

ところでサンタさん、うちの新しい家族、小犬の名前が決まりました。
「オッサン」といいます。
なんでかというと、あくびする時に、
「ふわ〜いい」
って、どこかのオッサンみたいな声を出すからです。
「小犬のくせに、オッサンみたいな声出すなあ」
トシオにいちゃんのひとことで名前が決まりました。
「もっとかわいらしい名前つけたげたらいいのに」
おかあさんはクスクス笑っていましたが
今ではそんなおかあさんも、
「オッサン!ごはんやで。しっかり食べや」
って呼んでいます。
サンタさんがこんどうちに来た時
オッサンが吠えないように、ちゃんとしつけておくね。
安心してグミのおうちに来てね。
そろそろおかあさんがやってきそうなので
おてがみ書くのをやめます。
サンタさんも病気にならないように気をつけてね。
またおてがみ書きます。
さようなら。
昭和36年3月2日
青田グミ