第三話 「おとうさんの鳩ポッポ」

少しずつ春に近づいて行ってるような今日このごろ。
それでも夜になると寒さは厳しく、
くすの木町は今夜もしんしんと雪が降り続いています。
さてグミちゃんはどんな夜を過ごしているのでしょう?

さあ今日のおてがみは?

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はいけい サンタクロースさま

サンタさん、お元気ですか?
風邪引いてませんか?
くすの木町は今日も雪が降っています。
タバコ屋のおばあちゃんとこの郵便ポストは
いっぱい雪が積もってぶくぶくに太っていました。

郵便ポストを指さして「おかあさんみたいやね」って言ったら
おかあさんに「こら!」って叱られたよ。
うちのおかあさんはもうじき赤ちゃんが生まれるから
とっても太っているのです。
赤ちゃんの分までごはん食べないといけないから、なんだって。

でもおとうさんがこっそり
「ちがうで、グミ。おとうさんの分まで食べてるから
 おかあさんは太ってるんやで」
って言ったら、おかあさんにギロッとにらまれていました。

うちのおとうさんはふだんはおとなしいし
お仕事ばっかりしてまじめやのに、
時々ヘンになります。

よそのおとうさんとちょっと違うところは、
話しているときです。
人の話をじーっとだまって聞いていると思ったら、
突然、
「ほほう!!」
「なんとまあ!!」
「なるほど!!」
なあんて大声で叫んで、ひざをぽんっ!と叩くのです。
ね、おかしいでしょう?


でも、お仕事が大好きなおとうさんは
私やおにいちゃんとあまり遊んでくれません。
うちは自転車屋さんをしているのですが、
おとうさんはいつももくもくと、自転車の修理をしています。
お休みの日も、お客さんから電話があると
工具を持って出張修理に出かけます。
よそのおうちのおとうさんみたいに、
遊園地やデパートに連れていってほしいです。
サンタさん、そう思いませんか?


そんなまじめなおとうさんだけど、
今日は朝からうきうきしていました。
「今日は節分やなあ。」
おとうさんは庭で寒風摩擦をしながら
うれしそうに言ってました。

なんでか知らんけど
おとうさんは豆まきが大好きなんです。
毎年節分の日の夜は、お仕事を早めにおわって豆まきをします。
ふだんはお仕事ばっかりでめったに遊んでくれないくせに、
豆まきの時は別です。
マスに豆をいっぱい入れて、
「さあ、グミ!行くで!」
と言うと、いきなり「鬼は〜外!福は〜内!」と
叫びながら家じゅうを走り回ります。

おにいちゃんもおかあさんもあっけに取られて見てるだけなのですが、
グミは一緒にやらんとあかんような気持ちになって、
「鬼は・・そと・・福はうち・・」って小さく叫びながら
おとうさんの後をついて走ります。
おとうさんはお構いなしで、ニコニコ笑いながら
あちこちに豆をばら撒いて行きます。
おとうさんはほんまにうれしそう。


ほんとはグミもうれしいのです。
豆まきのあとは八幡さんの節分祭りに連れて行ってもらえるからです。
節分祭りの時は八幡神社にいっぱい夜店が出るねん。
風船、ヨーヨー、イカ焼き、ベビーカステラ、ままごとのおもちゃ・・
大好きなお店がいっぱい並ぶんやで。


今日も豆まきをした後、お父さんと八幡さんに行って来ました。
早く夜店を見たくて、お参りも早くすませようと思ったけど、
今年はお願いごとがあるから、ちゃんと手を合わせて来ました。
グミのお願いごと、ひとつは
「今年こそサンタさんとおはなしできること」
もうひとつは
「赤ちゃんが無事生まれること」です。
おとうさんも同じことを神さまにお願いしたそうです。
来年は赤ちゃんも一緒にお参りできるかなあ。


お参りがすんでから、お父さんと夜店を見てまわりました。
人がいっぱいいるので迷子になったら大変と、
おとうさんはしっかりグミの手を握ってくれました。
グミはチビやから、こんなところではぐれたら
神社のキツネにさらわれるぞ、って言うのです。
私は恐くて恐くて、おとうさんの手をぎゅっと握っていました。

おとうさんは赤いヨーヨーを買ってくれました。
ヨーヨーをポンポン弾ませると、
水がチャプチャプ飛んでる音がしました。


帰り道は雪がだいぶ積もって来たので、
おとうさんがおんぶをしてくれました。
おとうさんの背中はじわ〜んと温かくて、
湯たんぽのようでした。


「ポッポッポ〜 鳩ポッポ♪
 豆がほしいか そらやるぞ
 みんなで仲良く食べに来い」

おとうさんは急に鳩ポッポを歌い始めました。
サンタさん、鳩ポッポの歌知ってますか?
おとうさんは去年も八幡さんに来たとき、
この歌を歌ってたんやで。
なんでかなあ。


グミは、おとうさんの耳に雪が降りかかってすごく寒そうなので、
後ろから手で耳を覆ってあげました。
「こらこら。何にも聞こえへんやろ。」
おとうさんはそう言うと、
さっきより大きな声で鳩ポッポを歌いました。

「ポッポッポ〜 鳩ポッポ♪
 ポッポッポ〜 鳩ポッポ♪」

グミが持ってたヨーヨーは、おとうさんの歌に合わせて
チャプチャプ揺れていました。
ヨーヨーも鳩ポッポを歌ってるかのようでした。

私はおとうさんの背中が温かいのと
鳩ポッポの歌が嬉しくて、
ずっとずっとこのまま歩いていたいと思いました。
毎日が節分だったらいいのに、と思いました。


「ほうら!キツネがやってくるぞう!」
おとうさんはそう言うと、いきなり私を揺らし始めました。
八幡さんのキツネさんがグミをさらいに来る、って言うのを思い出して、
「いやや!恐いよう!おとうさん、恐いよう!」
おとうさんの背中にぎゅっとしがみつきました。

「おとうさん、早く逃げて!キツネさんが来る!」
私は恐くて恐くて、えんえん泣きながらそう言うと、
「泣かんでもええ。
泣かんでもええ。
 なにも恐いことなんか、ないんやで。
 おとうさんがいつも一緒にいたるさかいにな。」

おとうさんはちょっとだけ振り返ってそう言いました。
私はこっくりうなずいて、
おとうさんの背中でごしごし涙をふきました。


私のあとをつけて来ているキツネさんも、
きっとおとうさんと子供の親子な気がしました。
おとうさんギツネの背中もきっと温かいやろな。
鳩ポッポを歌ってあげるんかな。
・・そう思ったら、キツネさんが恐くなくなりました。

hatopoppo2.gif


ここまでおてがみ書いたら眠くなりました。
ふわ〜。
口が切れそうなほど、大きなあくびが出てきます。
それではおやすみなさい、サンタさん。
またおてがみ書きます。


昭和36年2月3日

青田グミ

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参考までにこちらの日記をごらんください。

「父と鳩ポッポのひみつ」